「明日は、アリオスとレヴィアスのお誕生日ね!!」
アンジェリークは、嬉しそうに穏やかな微笑を浮かべ、二人を見やる。
「・・・嬉しいか? アンジェリーク」
彼女の微笑が何よりも嬉しくて、レヴィアスは、思わず深い眼差しを送った。
「バーカ。嬉しいに決まってんだろ?」
アリオスの声の響きは挑戦的で、彼は、レヴィアスの額を小突き、息子の顔は、険しくなる。
「阿呆者が!」
「あんだと〜」
「もう! 二人とも喧嘩はやめてっ!」
いつものように喧嘩をし、いつものようにアンジェリークに窘められる。
平和な家族の風景だと、アンジェリークは思った。
「明日はね、二人のために、朝から美味しいケーキを焼いて、たくさん美味しそうな料理を作るから、楽しみにしていてね!」
彼らに向けられる、アンジェリークの笑顔が可愛くて、可愛くて、一瞬、二人してうっとりとする。
「----おまえの作る料理は、何でも上手い・・・!」
レヴィアスのふとしたときに出る艶やかな微笑みは、我が子ながらドキリとさせると、アンジェリークは考える。もちろんこのことは、旦那様であるアリオスには内緒だ。
「有難う、レヴィアス。頑張るからね!」
「ああ。楽しみにしてる」
「アンジェリークの作る飯は上手いのはあたりまえだ。愛情篭ってんだからな」
アリオスの言葉は、アンジェリークを心地よくするすべを心得ているかのように、深く彼女の心に落ちる。
極上の微笑が、アンジェリークの顔に浮かび、レヴィアスはそれが癪に障った。
あんな奴に、どうしてそんな、笑顔を送るんだ・・!
「ね、レヴィアス、誕生日は何が欲しい?」
「アンジェリーク!!」
言葉が発せられるのと同時に、アリオスの長い足の蹴りを、レヴィアスは受ける。
「何をする! この悪魔!」
「アンジェリークは、俺のものなんだよ!!」
「おまえになんかもったいない!」
「おまえなんか、俺とアンジェリークがやってなきゃ生まれてねーだろ!」
「黙れ! 耄碌スケベ!」
リヴィングは、再びプロレスのリングへと姿を変え、仁義なき戦いの火蓋が切って落とされた。
二人は、いつものように、お互いを小突きあい、蹴り合い、罵り合う。
「も〜、やめてよ〜」
「アンジェリーク、お父さんが、"ゼロ・ブレイク"かました〜」
わざと泣くフリをして、レヴィアスはアンジェリークに抱きついた。もちろんその瞳には、ニヤリと不敵な笑みを浮かべて、アリオスを捕らえている。
「も〜、アリオスも、子供相手に本気になっちゃだめよ」
「ケッ、本気なわけねーよ」
憮然として、アリオスは、ソファに腰掛け、煙草に火をつけた。
「さあ、レヴィアスもちゃんとまじめに考えてね? プレゼント」
ぽん、ぽんと背中を叩かれて、子ども扱いは止めてくれと心の中の彼が叫ぶ。
アンジェリークの前では、一人の男でいたいと切実に願っているから。
「我は、真面目に思ってる!」
「もっと、こう・・・、ゲームボーイとか、欲しいものはないの?」
アンジェリークは必死に軌道修正を図ろうと模索するが、そんなものが、この"レヴィアス"に聞くはずもなかった。
あ〜あ。どこで育て方を間違えたのかしら・・・。
仕方なしに、アンジェリークを喜ばせようと、レヴィアスは、自分も喜び、かつアンジェリークが喜んでくれるものを、必死になって模索する。
ついに、彼の頭にある考えが浮かんだ。
我はなんていいアイデアを思いついたのだ!! これだと、アンジェリークもやってくれる・・・!!(妄想モード驀進中)
「アンジェリーク・・・」
「何レヴィアス・・・」
「・・・"裸エプロン"はどうだ?」
途端に、アリオスから、レヴィアスの後頭部に目掛けてスリッパが投げられた。
「ナーイス!」
「己〜!!」
「やるか?」
二人の間に、炎が燃え滾って、互いを見つめあう。
「俺だって、新婚時代にしかやってもらってないもんを、おまえごときにやらせるわけには、いかねーんだよ!!」
「そんなことさせるな!」
「おまえだってさせようとしてるだろーが!」
親子喧嘩が再び始まり、母として、妻として、頭を抱えてしまう。
「も、二人とも喧嘩は止めて? アリオスも子供相手に本気にならないで。レヴィアスも、機嫌直して? 明日、美味しいものを一杯作るから、ね?」
二人の間をおろおろするアンジェリークを見て、彼らはやはり喧嘩を止めた。
彼女の困った表情は、本当に威力があり、その姿がまた可愛いと二人は思う。
「なあ、明日、俺だけの為に美味しい料理を作ってくれ。それが何よりのプレゼントだ・・・」
レヴィアスの深い微笑みは、アンジェリークのためだけに在り、彼女もそれが判っている。
伊達に、レヴィアスの母親を7年もしていない。
「判ったわ、頑張るから・・・、きゃッ」
アリオスは、アンジェリークの背後にいつのまにか廻り、彼女を横抱きに抱き上げていた。
「何をする!」
レヴィアスの瞳は憎悪に燃え、深い影を作る。
「よくいったぜ、レヴィアス。おまえは料理を食べろ。俺はこいつを食べるからな」
アリオスは、アンジェリークの頬に優しいキスをしながら、意地悪げに余裕を持って呟く。
レヴィアスには、それが憎憎しくて堪らない。
「アリオス〜」
「じゃあな、レヴィアス。お子様は早く寝ろよ」
軽くウィンクをして、喉を鳴らしながらアリオスは、クッと笑うと、アンジェリークと共に寝室へと向かう。
「こら! にげるな・・・!!」
追いかけようとして、アリオスに足を引っ掛けられてしまい、レヴィアスは滑って転んでしまった。
「ク、クソッ!」
次に立ち上がったときには既に遅く、両親は寝室に消えた後だった。
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コメント
お誕生日創作というのに・・・、私はまたやってしまいました・・・。
しかもこれは、怒涛の更新シリーズのラストを飾るものだというのに・・・。
「トロワ」前の、最後の創作だというのに・・・。
まったく、何考えてんだろーね。
ですからtinkへのゼロ・ブレイクをご準備の方は、反省しておりますので、許してください・・・。
